2005年05月16日

カッコいい探偵小説が読みたくなったら

友達が夫の浮気を疑いだした。けれど、すべて状況証拠ばかりで、問い詰めても「まったく、ありえない」と全否定(どんな証拠つかまれても決して認めないというのが男の法則か?)。そこで彼女、探偵というか、調査員というかを雇って、休みの日に出かけた夫をツケさせた。電車を発車間際に飛び降りるという玄人はだしのワザ(この夫、ただ者じゃない…)で、その探偵はあっけなくまかれてしまったのだとか。本当に探偵だったのだろうか…。現実の探偵って、この程度? 探偵はミステリーで出会うもの?
そこで、自分が探偵を雇うなら、こんな探偵を雇いたいと思わせるミステリーが「偽りの街」のベルンハルト・グンター。ただし、夫の浮気調査には向きません、だって決して知りたくないことまで探り出してきそうだもの(実はオッパイ・フェチだとか…)。

タイトル:偽りの街
著  者:フィリップ・カー
出版社 :新潮文庫

ナチスが支配する、第二次世界大戦直前のベルリンを舞台としたミステリー。ベルリン・オリンピックを間近に控え、華やぎと高揚、そして破滅の予感が街を埋めてゆく。どうしようもなく退廃的で、危険に満ちて、誰もが神経をぴりぴりさせながら平静を装う、神経症寸前のベルリンの表情は魅惑的で心ひかれる。登場人物は誰もが一癖どころか三癖も四癖もありそう、ひねくれ気味で、それでいて都会的。

「偽りの街」は、元刑事の私立探偵グンターが放火殺人事件の謎を追うハードボイルド。どんでん返しあり、続編へと続く女性問題ありと盛り沢山。連続美少女殺人犯を追う「砕かれた夜」★★★★はユダヤ人弾圧の契機となったクリスタル・ナハトを背景に、かつて追われた警察に復職したグンターの警察小説。「ベルリン・レクイエム」★★★★は、敗戦によって分割統治されるベルリンにうごめくスパイやナチの残党と渡り合うグンターを描くスパイミステリー。カーはとにかく芸達者。シリーズ3作をそれぞれのテイストで描きあげている。もっとも他の作品は、このベルリン・シリーズほど完成度が高くないように思えるのだが…。

おすすめ星(5段階)★★★★
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2005年05月13日

中世ってこんな楽しい時代だったの?

タイトル:聖女の遺骨求む
著  者:エリス・ピータース
出版社 :光文社文庫

12世紀、内乱に揺れるイングランドの修道院を舞台としたミステリー。中世の修道院というとすぐ「薔薇の名前」が浮かぶけど、哲学や神学をテーマとするわけでもなく、まったく難解なところはなく、ラクラク読める。この時代の生活(料理や衣類など)がていねいに描かれ、中世の暗黒のイメージが一変する。人間的な、つまりごく当たり前の欲望や感情を持ち、自分の役割に懸命な人たち(もちろんヘンなやつも)が次々現れ、とにかく楽しい。

主人公は、かつて十字軍の兵士として聖地に赴き戦ったブラザー・カドフェル。旅と冒険の日々を堪能した後、中年になってから修道院に。薬草を育て、病人を癒す役割を得ているが、持ち前の好奇心と行動力はいまだ衰えず、ことが起こればすぐに手を出さずにいられないというシニアの星。日頃は薬草園の手入れなんかやっているものの、外に出る機会は逃さない、というか、こっそり出て行くのもしばしば。

この「聖女の遺骨求む」は、出世欲に駆られた副院長に率いられ、ウエールズの草深い田舎にひっそり眠る聖女の遺骨を掘り出しに行くことに(これって、墓荒らし?)なるというシリーズ第1作。そこで、神の啓示を受けたと主張する修道士やら、村娘と恋に落ちる見習いやら、傲慢で単純な副院長やら、頑固な村の実力者やら入り乱れ…。

長編20作+短編集1作。もともとこのシリーズは社会思想社の現代教養文庫から出ていたもので、社会思想社が倒産して版権が光文社に移動、現在続々と発行されている。

シリーズ中、「秘跡」は文句なしの★★★★★。ミステリーに恋愛はタブーなんて、旧式のお約束もなんのその。恋愛そのものが謎の骨格となるというアイデア勝利の傑作。読んでほしいからあえてストーリーには触れないけど、嗚咽ものの感動が待ち受ける。シリーズを通しで読まなくても、この一冊は是非!

全般的にはずれが少ない、クオリティの高いシリーズ。「死への婚礼」「氷のなかの処女」「聖なる泥棒」もいい。「歴史ものはあまり…」という方は、2作目の「死体が多すぎる」★★★★から入ることをおすすめ。

おすすめ星(5段階)★★★★


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2005年05月12日

“美女で天才”しかもサイコパスのハッカー!

タイトル:氷の天使
著  者:キャロル・オコンネル
出版社 :創元推理文庫

元ストリート・チュルドレンで天才的な頭脳を持つ、美貌のマロリー。でも、その心は善悪を判断できないサイコパスにして、ハッカー。それなのに、養父がニューヨーク市警の警視だったことから、自分も警官。というハチャメチャな設定。

文章はわかりにくく、紗のベールを何枚も通して景色を眺めているよう(あえて、そういう文体を採用しているらしいが)。そこで描き出されるマロリーの姿は魅惑的、事件の謎(老女連続殺人を追っていたマロリーの養父まで殺されてしまった)よりもずっと深い謎を秘めた主人公。なぜ老女ばかりが次々と殺されていくのか、唯々諾々と犯人におびき出されていくのか?その謎に魅せられ、事件を追うマロリー。読み進めるほどに、物語世界に引きずり込まれる、すごいパワーのある作品。

でも、美しくなければ、周囲に愛されないし、助けてもらえないのはミステリーならずとも人生の真実(らしい、あまり認めたかないが)。はっきり言って、本当に人の気持ちがわからなくて人に愛されるものなの?とちょっと意地悪く考えたくもなる…。

1作目の「氷の天使」と2作目の「アマンダの影」★★★★はもともと竹書房から「マロリーの神託」「二つの影」として出版されたもの。創元推理文庫に移って再出版され、さらに「死のオブジェ」★★★★「天使の帰郷」★★★★と続く。事件の謎とともに、なぜマロリーがストリート・チュルドレンにならなければいけなかったのかというマロリー個人の謎もシリーズとともに進展し、「天使の帰郷」で明らかとなる。

オコンネルはとにかくすごい。というか、比類なき心のあり方を表現できる、オリジナリティの高い作家。他に作品は、「クリスマスに少女は還る」★★★★★がある。おぞましい変質者に誘拐された二人の少女のサバイバルストーリー。文句なしの傑作、最後に体が震えるほどの感動が待ち受ける。

おすすめ星(5段階)★★★★

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2005年05月11日

これは、“おバカ”小説の愛しき傑作かも?

タイトル:さらば、愛しき鉤爪
著  者: エリック・ガルシア
出版社 :ヴィレッジブックス

とにかく超おバカである。超おバカすぎて、星を5つつけたいくらい。なにしろ、実は恐竜は絶滅していなくて、密かに小型化し、人間の皮をかぶって人間にまぎれて共生しているっていうお話なんだから!それを人間はちっとも気がついていないって設定?!

そして恐竜探偵のルビオが、人間・恐竜入り乱れて繰り広げるドタバタ・ハードボイルド。ドタバタとはいえ、ミステリーとしての骨格は恐竜だけあって実にしっかりしたもの。
恐竜同士を判別するのは、その体臭。草木や花、スパイス、皮、果実などのカクテルで大衆が構成され、香りで個人判別ができちゃうらしい。もちろん、イヤな奴はイヤなにおい(まあ、嗅覚の鈍さは人間の大きな特徴といえるかも)。しかも、恐竜はバジルやマジョラムなんかのハーブでトリップできちゃうらしい。

こういう小説がもっと人気が出たら、日本はいい国、生きやすい国になるのに、とふとしみじみ。(まあ、経済力はどん底まで落ちるだろうけどさ)

恐竜はさておき、ミステリーは上質、お約束の軽口たたきもシニカルでニューモラス。クオリティ高い。でも、重たいテーマの深刻派や、凝りに凝ったトリックの本格派が多くて、なかなかウケないんだよね。ユーモアミステリーとか呼ばれて軽く見られるし…。残念。
シリーズで「鉤爪プレイバック」★★★★もある。未訳の作品があるはずなのに、まだ出ないのは、やはり売れないせい?残念。

おすすめ星(5段階)★★★★
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2005年05月10日

“スタイリッシュ・ミステリー”と呼びたい一冊

タイトル:魔術師の物語
著  者:D・ハント
出版社 :新潮文庫

ストーリー全体を流れるブルージーな雰囲気がとにかくおしゃれ。舞台は霧の街・サンフランシスコ。主人公は色覚障害を持ち、世界がモノトーンにしか見えない女性写真家。ゲイの街娼たち、ホームレスの心優しいストーカー(?)、セレブな元カレ……と脇も多彩。

主人公がモデルとして写真を撮り、恋か友情かよくわからない微妙な関係を作ってきた美しいゲイの街娼が殺され、サンフランシスコの霧のように立ちこめる謎に巻き込まれていく。謎そのものは、まあ平均点。でも、物語を格別にしているのはその人物造形。主人公はもとより、被害者とその妹がなんと魅力的なことか。ピュアで残酷で悪意に満ちて…。

続編があるはずなのに出版されないのはあまり売れなかったから?これもすでに絶版かも。見つけたら、即買いをおすすめ!
おすすめ星(5段階)★★★★

posted by gsks at 17:35| Comment(0) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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